12年かけて個人店オーナーになった人の話|遠回りこそが近道だった

この記事でわかること: 前回の記事では、準備不足で失敗した2人の話をしました。今回は逆に、12年以上かけて着実に準備を重ね、オーナーに認められて店を引き継いだ人の話です。成功した人が何をしていたのか、その具体的な中身をお伝えします。

前回の話のおさらい

前回の記事では、2人の話を紹介しました。

一人は、安定した仕事を辞めてバルを開きたいと相談してきた方。現場を知らないまま始めることの危うさをお伝えして、思いとどまってもらいました。

もう一人は、チェーン店で4〜5年修行してから駅前ビルで開業した方。家賃と集客の壁に阻まれ、1〜2年で閉店しました。

2人に共通していたのは、準備の浅さと、「もう十分」という過信でした。

では、成功する人は何が違うのか。今日はその話をします。

12年間、ずっと「準備中」だった人

私が知っている中で、「この人は絶対に成功する」と感じた人がいます。

その方は、飲食業界に入ってから7〜8年の修行を積んだ後、ある店の雇われ店長を5年間務めました。合計で12〜13年。この間、一度も「もう独立できる」と口にするのを聞いたことがありませんでした。

むしろ逆で、常に「まだ足りない」という姿勢でした。

店長時代に「全部」やっていた

雇われ店長というと、「現場を仕切るだけ」のイメージを持つ人もいるかもしれません。

でも彼の場合は違いました。店長として任された5年間で、お店に関わるほぼ全ての仕事を自分でやっていたのです。

  • 料理のメニュー開発と改善
  • 仕入れ先の開拓と価格交渉
  • お酒のラインナップ選定
  • 店のインスタグラム運用と集客
  • 内装や空間の雰囲気作り
  • スタッフ管理

これらを全部、雇われている立場でやっていた。

「店長」ではなく、「オーナー見習い」として仕事をしていたと言った方が正確かもしれません。

集客を「自分で作れた」ことの意味

前回の記事で、失敗した人の敗因の一つとして「集客」を挙げました。

チェーン店で働いていると、集客は本部がやってくれる。現場の店員は、来たお客さんに対応するだけ。だから独立しても、「待っていれば客が来る」という感覚から抜け出せない。

彼はこの点でも、まったく違いました。

店長時代から、お店のインスタグラムを自分で運用して、集客を作っていたのです。

どんな投稿が反応されるか。常連さんが喜ぶコンテンツは何か。新規のお客さんを引き込むには何を発信すればいいか。

これを5年間、実際の店舗運営の中で試行錯誤しながら身につけていた。独立する頃には、「SNSで集客する」という技術が完全に自分のものになっていたわけです。

「着実に常連さんがついていた」

私がその方を「成功する」と感じたのは、華々しい実績や資格があったからではありません。

たまに顔を出すたびに、着実に常連さんが増えていたからです。

お店が繁盛しているかどうかは、数字だけでは見えない部分もあります。でも、同じお客さんが何度も来ている姿、新しい顔がすぐ常連になっていく雰囲気——これは、その店が本当に愛されている証拠です。

雇われ店長という立場でも、自分のお店のように大事にしていた結果が、そこに出ていました。

最後は、オーナーに認められた

そして、5年が経ったとき。

オーナーが、その店をそのまま引き継がせてくれたのです。

正直に言うと、これはかなり特殊なケースです。長年一緒に働いてきた信頼関係があって、しかも「この人に任せたい」と思わせるだけの実力が伴っていたからこそ実現した話であって、どこにでもあることではありません。

ただ、逆に言えば「それだけの実力と信頼を積み上げていた」ということでもあります。

5年間、自分が育てた店。既に常連さんがいて、仕入れ先との関係もあって、SNSのフォロワーもいる。その状態からのスタートでした。

これは、12年以上かけて積み上げてきたものが、全部形になった瞬間だったと思います。

失敗した人との、決定的な違い

前回紹介した失敗例と並べると、違いが鮮明になります。

失敗したイタリアン経験者:

  • 修行期間:4〜5年(チェーン店のみ)
  • 集客経験:なし(本部任せ)
  • 独立のきっかけ:「もう十分」という自己判断
  • スタート:ゼロから(物件・客・関係性すべて)

成功した彼:

  • 修行期間:12〜13年(修行+店長経験)
  • 集客経験:あり(5年間のSNS運用)
  • 独立のきっかけ:オーナーに認められた
  • スタート:常連・仕入れ先・SNS全て引き継ぎ

数字にすると「3倍の準備期間」ですが、実質的な差はそれ以上です。チェーン店の修行とは違い、「店を作る経験」と「集客を作る経験」を両方積んでいたからです。

「遠回り」が最大の近道だった理由

独立までに12〜13年かかっている。これを「遠回り」と感じる人もいるかもしれません。

でも私は、これが最も確実な近道だったと思っています。

なぜなら、開業してから学ぼうとすると、失敗のコストが天文学的に大きいからです。

  • 家賃:毎月確実に出ていく
  • 食材ロス:売れなければ捨てるしかない
  • 人件費:スタッフを雇えば毎月固定でかかる
  • 借入金:返済は待ってくれない

開業してから「集客の仕方を覚える」「メニューを試行錯誤する」「仕入れ先を探す」では、お金が持たない。

雇われている間に全部やっておいたから、独立初日から「答え合わせ」ができる状態でスタートできた。これが、彼の独立が成功した本質的な理由だと思っています。

開業を考えている人へ

この話を読んで、「自分には12年なんてかけられない」と思った人もいるかもしれません。

でも、考えてみてほしいのです。

あなたが今やっている仕事は、「オーナー見習い」として通用するレベルですか?

  • メニューを自分で考えられる?
  • 仕入れ先と交渉できる?
  • SNSで集客を作れる?
  • 常連さんが自分についてきてくれる?

これらに「yes」と言えるなら、独立のタイミングは近いかもしれない。

逆に「まだ」と感じるなら、それが答えです。「まだ」と思えている間は、まだ準備中ということです。

まとめ:成功する人の共通点

前回と今回の3人の話を通じて、私が感じる成功する人の共通点はこうです。

  • 「まだ足りない」と思い続けられる謙虚さ
  • 雇われている間から「オーナー目線」で仕事をする姿勢
  • 集客を「誰かがやってくれるもの」ではなく「自分が作るもの」と理解している
  • 人の話を素直に聞ける耳を持っている

才能や運の話ではありません。これらは全部、意識と姿勢の問題です。

そして、一番大事なことを最後に言わせてください。

雇われている間から、経営者目線で仕事をすることが、独立への唯一の近道です。

「面白そうだから」「料理が好きだから」「なんとかなるだろう」という思いつきで始めることが、どれだけ危険か。前回の記事で紹介した失敗例を見れば、わかってもらえると思います。

逆に、今の職場で「もし自分がオーナーだったら」という目線で毎日の仕事に向き合っている人は、独立への準備が着実に進んでいます。

会社員的な発想のまま独立するのではなく、雇われている間に経営者になる。

それが、長く続く個人飲食店を作るための、本当の出発点だと思っています。

最後に:独立はゴールじゃない

少し個人的な話をします。

私自身、今も「まだ足りない」と思いながら店に立っています。10年以上続けてきても、その感覚は変わりません。むしろ、年を重ねるほどに「知らないこと」「できていないこと」が見えてくる気がします。

「足りると思ったら、そこで終わりだ」と感じています。

独立して経営者になることを、ゴールだと思っている人がいます。でも実際は、経営者になってからがスタートです。

お客さんの期待に応え続けること。時代の変化に対応すること。スタッフや取引先との関係を大切にすること。毎年、毎月、毎日——終わりのない積み重ねが続きます。

だからこそ、「まだ足りない」と思い続けられる人が強い。謙虚さと向上心は、開業前だけでなく、経営者になってからも一生必要なものだと思っています。


筆者プロフィール

ある地方都市で小さな個人飲食店を営む店主。開業から10年以上、家族経営のスタイルで営業を続けています。

派手さはなくても、小さな店が長く続くための実践的な経営の知恵を発信していきます。

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