料理屋・バル・カフェを開業したい人へ|現役店主が現場で見てきた3人の話

開業・独立

この記事でわかること: 個人飲食店を長く続けている現役店主が、開業を相談してきた人たちの話をまとめます。止めて正解だった人、失敗した人、成功した人。3人の話から見えてくる「開業前に知っておくべき現実」をお伝えします。


飲食店の開業を夢見る店主。理想の店と働き詰めの現実が対比されたイラスト

飲食店を開きたい、という相談

個人飲食店を続けていると、開業の相談を受けることがあります。

「料理が好きだから、自分の店を持ちたい」
「会社を辞めて、カフェをやりたい」
「バルを開いて、好きなお酒を出したい」

夢を語る人の目は、いつも真剣です。その気持ちを否定したいわけではありません。

でも、現場で長くやってきた立場として、正直に伝えなければならないことがあります。この記事は、そういう話です。


小さな飲食店を一人で切り盛りする店主の一日を描いたイラスト

まず知っておいてほしいこと:飲食店はセルフブラック企業になりやすい

開業の話をする前に、一つだけ伝えさせてください。

飲食店経営者は、ほぼ例外なく「セルフブラック企業」に陥ります。

自分が社長で、自分が従業員。休めばその日の売上がそのままなくなる。いいものを作るためには仕込みの時間が必要で、気づけば朝から深夜まで働いている。しかも、好きでやっているから「これは仕事ではなく趣味の延長」と感じて、働く時間がどんどん長くなっていく。

これは特定の業種だけの話ではなく、個人飲食店を経営するということは、ほぼ必ずこういう状態になるということです。

それを覚悟した上で始めるのと、知らずに始めるのでは、まったく違います。


カフェは「一番人気」で「一番難しい」

相談を受けていて感じるのは、「カフェをやりたい」という人が圧倒的に多いということです。

おしゃれな空間で、こだわりのコーヒーを出して、好きな音楽をかけて——そのイメージに惹かれる気持ちは理解できます。

でも正直に言うと、飲食の中でカフェは一番難しく、一番儲からない業態だと思っています。

理由は構造的なものです。コーヒー1杯の単価は数百円。長居するお客さんが多いから、席の回転も上がりにくい。フードを出せば売上は増えますが、その分仕込みが増えて労働時間も増える。

「好きだからカフェ」という動機は素晴らしい。でも、その「好き」が経営の厳しさに向き合う力になるかどうかが、分かれ目だと感じています。

ただ、これは「お金を稼ぐ手段」として見た場合の話です。もしお金に余裕があって、本当に趣味として数百万を失っても大丈夫という方、あるいは「ここまで赤字が膨らんだら撤退する」と決めて、それを実行できるという方なら、私は止めません。一度きりの人生、やりたいことをやればいいと思います。大事なのは、その覚悟と、引き際を自分で決められるかどうかです。

それからもう一つ。カフェをやるなら、その場所や時間を活かして「営業以外の収入」も考えると、ぐっと続けやすくなります。たとえば自家焙煎のコーヒー豆を売る、焼き菓子やオリジナルグッズを物販する、定休日に教室やレンタルスペースとして貸す——ドリンク1杯の利益だけに頼らない形をつくっておくと、売上の波にも強くなります。「席を回して稼ぐ」だけでなく、「この場所で他に何ができるか」を一緒に考えておくのが、私はおすすめです。

そして、意外と見落としがちなのが——お店は「辞めるとき」にもお金がかかるということです。物件によっては、退去時に内装をすべて取り払って元の状態に戻す「スケルトン返し」を求められることがあります。これが数十万〜百万円単位でかかることもあって、「赤字で苦しくなって辞めたいのに、辞めるためのお金がない」という、一番つらい状況に陥る人もいます。始めるときの資金だけでなく、「もし辞めるとしたら、いくらかかるのか」も契約の段階で確認しておくこと。これは本当に、先に知っておいてほしいです。


現場で見てきた3人の話

こうした現実を踏まえた上で、私が実際に見てきた3人の話を紹介します。

止めて正解だった人

安定した仕事を辞めてバルを開きたいと相談してきた方がいました。料理への情熱は本物でしたが、飲食店で働いた経験がなく、現場の実態をほとんど知らない状態でした。

「まず誰かの店で1年でも働いてみてほしい」とお伝えしたところ、思いとどまってくれました。今も元気に会社員を続けながら、時々お客さんとして来てくれます。

👉 詳しくはこちら:「安定した仕事を辞めてバルを」と言われた夜|個人飲食店の開業でよく見る無謀


止められなかった人

チェーン店のイタリアンで4〜5年修行し、「もう十分」と感じて独立した方がいました。駅前ビルの30人キャパの物件を選び、いいスタートに見えました。

でも、家賃の重さと集客の壁に阻まれ、1〜2年で閉店。チェーン店では学べない「集客を自分で作る」という経験がなかったことが、決定的な敗因でした。

👉 詳しくはこちら:「安定した仕事を辞めてバルを」と言われた夜|個人飲食店の開業でよく見る無謀


成功した人

飲食店で7〜8年修行した後、ある店の雇われ店長を5年間務めた方がいます。合計12〜13年。店長時代からメニュー・仕入れ・SNS・集客を全部自分でやり、着実に常連さんを増やしていきました。

最終的にオーナーに認められ、その店をそのまま引き継ぐ形で独立。これはかなり特殊なケースですが、それだけの実力と信頼を積み上げていたからこそ実現した話です。

👉 詳しくはこちら:12年かけて個人店オーナーになった人の話|遠回りこそが近道だった


3人の話から見えてくること

3人を並べると、成功と失敗を分けたものが見えてきます。

準備の深さと、経営者目線があったかどうか。

雇われている間から「もし自分がオーナーだったら」という目線で仕事をしていた人は、独立してからも強い。逆に、「好きだから」「なんとかなるだろう」という思いつきで始めた人は、現実の壁にぶつかったときに立て直しが難しい。

料理屋でも、バルでも、カフェでも——業種は関係ありません。経営者目線を持って準備を積み重ねてきた人が、長く続く個人店を作っています。


それでもやりたい人へ

この記事を読んで、「それでも開業したい」と思った人へ。

その気持ちは大切にしてほしいです。ただ、一つだけお願いがあります。

まず、誰かの店で働いてみてください。

外から見ているだけでは絶対にわからない世界が、中にあります。仕込みの量、営業中の緊張感、閉店後の片付け、お客さんとのやり取り——これを体で知った上で「それでもやりたい」と思えたなら、そのときが本当のスタートラインです。


【保存版】飲食店開業の基礎ロードマップ|流れ・資金・届出

ここからは、「現実を知ったうえで、それでも進む」と決めた人のために、開業の基礎を実務的にまとめておきます。細かい部分はそれぞれ詳しい記事にリンクしておくので、必要なところから読んでください。

① 開業までの大まかな流れ

飲食店の開業までの流れ(コンセプトから資金調達・届出・内装・仕入・集客・オープンまで)を示したステップ図

飲食店開業は、ざっくりこの流れで進みます。

  1. コンセプトを決める(誰に・何を・どう出すか)
  2. 競合リサーチ・メニュー試作
  3. 物件を探す
  4. 事業計画書をつくる(融資審査の最重要書類)
  5. 資金調達(自己資金+融資)
  6. 各種資格・届出
  7. 内装・厨房設備
  8. 仕入先・備品の手配
  9. 採用(必要なら)
  10. 集客・販促の準備
  11. オープン

このうち、修行・現場経験の段階を飛ばすと、前述の「修行不足で失敗した人」のようになりがちです。→ 修行は何年すべきか独立のタイミングも参考に。

② 開業資金はいくら?目安と内訳

開業費用は、日本政策金融公庫の調査(2024年度・全業種平均)で平均985万円/中央値580万円とされています。飲食店だけの数字ではありませんが、目安として。内訳のイメージはこんな感じです。

項目目安
物件取得費(保証金・礼金・前家賃など)賃料の6〜10ヶ月分
内装工事(居抜き)坪15〜30万円
内装工事(スケルトン)坪30〜60万円
厨房設備(冷蔵庫・食器・備品など)100〜200万円
運転資金月の固定費の6ヶ月分以上(できれば1年分あると安心)
自己資金の目安総額の約3割

特に強調したいのが運転資金です。私の実感では、3ヶ月分では心もとない。最低でも6ヶ月分、できれば1年分を用意しておくと、売上が安定しない開業直後の時期も落ち着いて乗り切れます。ここをケチると、いい店でも資金ショートで畳むことになりかねません。

※業態・立地・地域で大きく変わります。最新・詳細は公式や専門家で確認を。うちの店の実際の初期費用は別記事で公開しています →飲食店の開業初期費用

③ 資金調達と事業計画書|ここが一番の関門

多くの人がつまずくのが資金調達です。自己資金で足りなければ日本政策金融公庫の創業融資が定番。ただし、融資の可否は事業計画書の出来でほぼ決まります。「数字の裏付けがある計画か」をシビアに見られます。

ここで一つ、最新の情報を補足しておきます。ネットの古い記事には「公庫は自己資金の何倍まで」「自己資金が1割必要」と書かれていることがありますが、2024年4月の制度変更で、新規開業資金に自己資金の要件はなくなりました(自己資金ゼロでも申し込み自体は可能です)。とはいえ、自己資金がある方が審査でも融資枠でも有利なのは変わりません。公庫の調査では、開業時の自己資金は平均293万円(資金全体の約2割)というデータもあります。制度はちょこちょこ変わるので、申し込む前に必ず公庫の最新情報を確認してください。

私自身も、自己資金だけでは足りず、日本政策金融公庫から融資を受けて開業しました。地方だと、都会ほど物件取得費がかからないことも多いので、必要な総額は抑えやすい面もあります。融資のリアルな話は創業融資の体験記事に、地方で小さく始める具体策は「地方で300万円で始める」記事にまとめているので、あわせて読んでみてください。ちなみに、都会で小さなバーを始める話なら、林伸次さんの名記事「300万円でお店をやろう」がとても参考になります。

正直、事業計画書づくりや資金繰りの設計は、素人がひとりでやるには難しい部分です。開業前から税理士に相談しておくと、融資の通りやすさも、開業後の資金繰りも段違いに安定します。私自身、数字まわりは税理士に任せてきて本業に集中できたのが大きかったです。ツテがなければ、無料で複数の税理士を比較できる紹介サービスから始めるのが近道です。

※私自身はこの紹介サービスで契約したわけではなく知人紹介での体験です。税理士費用のリアルな相場は別記事で公開しています →個人飲食店の税理士費用

④ 必要な資格・届出 早見表

名称提出先ポイント
食品衛生責任者講習受講全店必須・各店1名
防火管理者講習受講収容30人以上で必須
飲食店営業許可保健所施設完成の約10日前まで
開業届税務署開業から1ヶ月以内
青色申告承認申請税務署開業から2ヶ月以内(税優遇)
防火関連の届出消防署30人以上・火を使う場合など
深夜酒類提供の届出警察署0時以降に酒類を提供する場合

※自治体で細部が異なります。管轄の保健所・消防署・警察署に必ず確認してください。

⑤ 物件:居抜き vs スケルトン

初期費用を抑えたいなら、厨房や内装が残った居抜き物件が有利。一方、理想を一から作るならスケルトンですが費用は跳ね上がります。立地・賃料・物件状態の見極めは、初心者が一番失敗しやすいところ。→ 飲食店の物件・立地の選び方

⑥ 開業後にすぐ必要になる準備(決済・経理)

見落としがちなのが、開業後すぐ必要になるキャッシュレス決済経理です。今はお客様のカード・QR比率が高く、決済手段がないと会計を取りこぼします。決済端末は開業準備と並行して申し込んでおくとスムーズ。→ Airペイの手数料を現役店主が実額公開/原価管理は 飲食店の原価率リアル も。

向いている人・向いていない人

最後に、相談を受けてきた経験から、ざっくりした目安を。

  • ⭕ 向いてる:数字(原価・利益)を考えるのが苦じゃない/休みが減っても続けたい理由がある/まず誰かの店で現場を経験する素直さがある
  • ⚠️ 危ない:「料理が美味しければ流行る」と思っている/「好きだから」だけが動機/現場経験がないまま物件から探し始めている

「料理の腕」は入場券にすぎません。長く続くかどうかを分けるのは、経営者の目線です。

まとめ

飲食店の開業は、夢を持って挑む価値のある仕事です。でも同時に、準備なしには続かない、厳しい世界でもあります。

この記事が、開業を考えている方にとって、一度立ち止まって考えるきっかけになれば嬉しいです。


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筆者プロフィール

ある地方都市で小さな個人飲食店を営む店主。開業から10年以上、家族経営のスタイルで営業を続けています。

派手さはなくても、小さな店が長く続くための実践的な経営の知恵を発信していきます。

【参考に】開業の全体像を把握したい人へ

この記事では現場で見てきた話を書きましたが、「手続きや資金調達の基礎も知りたい」という人には「創業手帳」がおすすめです。

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📌 関連記事(新着):事業計画書の書き方創業融資のリアル確定申告

……と、偉そうに書いてしまいましたが、私自身もこうして記事を書きながら、あらためて勉強している身です。一緒に学んでいけたら嬉しいです。

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