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「300万円で飲食店って、本当にできるの?」——そう思って調べていると、必ず行き当たる有名な記事があります。渋谷でバーを長く営む林伸次さんの「日本で一番わかりやすくてためになる小さな飲食店の始め方 300万円でお店をやろう」です。居抜きや造作譲渡をうまく使えば、都会のバーでも300万円で始められる——とても具体的で、私も読んでうなずきっぱなしでした。
ただ、読みながら一つ思ったんです。「これは“都会のバー”の話だな」と。私がやっているのは地方の小さな和食の店で、業態も場所もだいぶ違います。そこで今回は、林さんの記事への勝手ながらのアンサーとして、「地方で、料理の店を始めるなら、同じ300万円はどう変わるのか」を、自分の開業の実体験をまじえて書いてみます。
※あくまで一例で、地域や物件で大きく変わります。金額はうろ覚えの部分もあるので、参考程度に読んでください。

都会のバーと、地方の料理店。何がそんなに違うのか
林さんの記事がすごいのは、「バーは原価が低くて、一人でやれば人件費もかからない」という構造を、ちゃんと数字で見せているところです。お酒は捨てるものが少なく、原価率も1〜2割。だから少ないお客さんでも成り立つ。これは本当にその通りだと思います。
でも、地方の料理の店は、ここがけっこう違います。私が実際にやってみて感じた、大きな違いはこの3つです。
- 家賃は安い……都会の渋谷とはケタが違います。これは地方の最大の武器。
- でも駐車場が必須……車社会なので、停められない店はそれだけで候補から外れます。
- 料理の原価は高くなる……お酒中心のバーと違い、料理は食材費がかかる。捨てる部分も出る。
そしてもう一つ、これが一番大きいのですが、お客さんがつくまでが本当に大変です。都会のように通りすがりの人が多いわけではないので、常連さんがついてくれるまで、じっと耐える時期があります。その代わり、一度常連になってくれると、口コミがすごく効きます。「あそこ美味しいよ」のひと言で、新しいお客さんが来てくれる。地方はこの「人のつながり」で回っている部分が大きいです。
そして、ここは昔と今で大きく変わった点だと思います。郊外は、最初のお客さんをつけるまでが本当に大変です。でも、一度そこをクリアすれば、今はSNSやGoogleマップのおかげで「場所の不利」がずいぶん小さくなりました。昔は「いい立地じゃないと見つけてもらえない」が常識でしたが、今は「美味しい」「いい店だ」と思われれば、地図や口コミ投稿でちゃんと見つけてもらえます。「え、こんなところにお店が! でも混んでる!」——そんなお店、みなさんも一つや二つ思い浮かびませんか。場所のハンデを、発信と中身でひっくり返せる時代になったんです。これは郊外で店をやる人にとって、大きな追い風だと思います。
もう一つ、これは後になって実感したことですが、地方の小さな店は、コロナ禍のときに意外と強かったです。都心の繁華街にある大きなお店は、人出が消えて家賃だけが重くのしかかって、本当に苦しそうでした。でも地方の小さな店は、もともと家賃が低いうえに、支えてくれる常連さんが近所にいる。「あの店、大丈夫かな」と気にかけて来てくれる人がいるんです。固定費が軽いことと、顔の見えるお客さんがいることが、こういう苦しいときに効いてくる。派手ではないけれど、地方の小さな店には、そういう「打たれ強さ」があると感じています。
それから、これは数字には出てこないけれど大きいのが、暮らしとの近さです。郊外で、店を住まいの近くに構えられれば、通勤時間がほとんどかからない。満員電車に揺られることもなく、空いた時間に家族の顔を見られる。飲食店は朝から晩まで時間を取られる仕事だからこそ、この「家から近い」というのは、思っている以上に効いてきます。お金には換算しづらいですが、家族と過ごす時間を持てることは、長く続けていくうえで本当に大事な土台になります。

地方は「原価を高くできる」のが面白いところ
意外に思われるかもしれませんが、家賃が安いことには、料理の質を上げられるという裏のメリットがあります。都会だと家賃が重いので、その分どこかを削らないといけない。でも家賃が抑えられている分、食材にお金をかけて、いいものを出せるんです。
私の店も、原価率でいうと一般的な目安より高めです。普通は3割以内と言われますが、うちはもっとかけています。それでも成り立つのは、家賃が安くて、常連さんが「あの値段でこの料理なら」と納得して通ってくれるから。地方の料理店は、ここが都会のバーとはまったく違う戦い方になります。
都会の店は、家賃が高いぶん、原価を抑えるか、思い切って高単価のお店にして、その家賃を補う必要があります。一方の地方は、家賃が軽いぶん、その余力を食材に回せる。同じ「お金の配分」でも、家賃が高いか安いかで、力の入れどころが正反対になるんです。
原価率の話は、地方の小さな店が生き残るうえで一番大事なところです。うちの実際の数字も含めて、こちらで詳しく書いています。
👉 飲食店の原価率のリアルを見る地方の料理店、300万円の現実【私の実体験】
では、地方の料理店だと、お金はどうかかるのか。私自身の開業をふり返りながら、正直にお話しします。
物件:地方は「取得費」を抑えやすい
これは正直に言うと、私が300万円台で開業できた一番の理由はここです。都会だと保証金が家賃の10ヶ月分、なんていう話を林さんも書かれていますが、私の場合は、物件を探す中で、たまたま縁あって、ある場所を安く使わせてもらえることになり、保証金や物件取得のお金がほとんどかかりませんでした。正直、ここが大きい。逆に言うと、ここにお金がかかる人は、その分だけ総額が上がります。
地方は、親や知り合いのツテ、長く空いている物件、使われなくなったスペースなど、都会にはない「安く場所を確保する」選択肢があることが多いです。物件取得費をどれだけ抑えられるかで、開業のハードルは大きく変わります。まずは自分の周りに、使える場所やツテがないかを考えてみるのも一つの手です。
私の場合は、物件を探す中でたまたま縁あって、ある場所を安く借りられましたが、そういう場所がなければ、自宅の一部屋を改装してお店にするという手もあります。実際、知り合いのお店では、8畳ほどの部屋を改装して営業しているところもあります。広さがなくても、コンセプトとやり方次第で、小さく始めることは十分できます。「大きな箱を借りなければ」と思い込まず、まずは身の丈に合った小さな一歩から考えてみてください。
内装:スケルトンから、自分で図面を引いた
私の店は、何もない「スケルトン」の状態から作りました。内装にかかったのはだいたい250万円くらいです。林さんの記事では「1坪40万円」という目安が出ていましたが、これも作り方しだいで大きく変わります。
私がやったのは、自分で図面を書いて、知り合いの大工さんにお願いするという方法でした。プロの設計事務所に丸ごと頼むより、ぐっと費用は抑えられます。もちろん素人の図面なので、大工さんに「ここはこうした方がいい」と直してもらいながらですが、こうやって人の手を借りられるのも、地方の人付き合いのありがたいところです。居抜きが見つかれば、もっと安くできたとも思います。
資金:足りない分は公庫から借りた
「300万円もない」という人も多いと思います。私もすべて自己資金でまかなったわけではなく、日本政策金融公庫から750万円を借りました。林さんも書かれている通り、公庫は実績のない個人にも、事業計画書をきちんと出せばお金を貸してくれます。地方で店を始めるなら、ここはぜひ知っておいてほしい選択肢です。
公庫でいくら借りられたか、事業計画書はどう書いたか。融資のリアルはこちらで詳しく書いています。
👉 飲食店の創業融資のリアルを見るまとめ|場所が違えば、戦い方も変わる
林さんの記事は、都会で小さな店を始める人にとって、本当に最高の教科書だと思います。そのうえで、地方で料理の店を始めるなら、家賃の安さを武器に、原価をかけて、常連さんと口コミでじっくり育てていく——これが私の実感です。
300万円という数字は、地方でも一つの目安になります。物件取得を抑えて、内装は工夫して、足りない分は公庫を頼る。決して楽ではないですが、不可能でもありません。開業の全体の流れは、別の記事にまとめてあるので、そちらもあわせて読んでみてください。
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筆者プロフィール
ある地方都市で小さな個人飲食店を営む店主。開業から10年以上、家族経営のスタイルで営業を続けています。このブログでは、教科書には載っていない現場のリアルを、飾らず正直に発信しています。
……と、偉そうに書いてしまいましたが、私自身もこうして記事を書きながら、あらためて勉強している身です。一緒に学んでいけたら嬉しいです。


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