この記事でわかること: 個人飲食店を開業するために「どこで修行すればいいか」は、独立後の成否を左右する重要な選択です。現役の個人飲食店オーナーとして、また自分自身が複数の修行先を経験してきた立場から、修行先選びで大切にしてほしいことをお伝えします。
修行先選びは、独立の成否を決める
前回の記事で、12年以上かけて独立した人の話をしました。
その人が成功した理由の一つは、雇われている間に「店を作る経験」を積めたことでした。逆に失敗した人は、チェーン店で4〜5年働いたものの、独立に必要なスキルが身についていなかった。
この差は、才能でも運でもなく、どこで修行したかという選択の違いから生まれた部分が大きいと思っています。
修行先選びは、独立後の自分の店の姿を決める、最初の重要な判断です。
ポイント①:自分がやりたい店に近い場所を選ぶ
修行先を選ぶ上で、一番大切なことをひとつ挙げるとしたら、**「自分がいつか開きたいお店に近い場所で修行すること」**です。
和食をやりたいのにイタリアンで修行する、小さなカウンターの店を開きたいのに大箱の居酒屋で働く——それでは、修行で身につくことと、独立後に必要なことがズレてしまいます。
自分の理想の店のイメージを先に持っておいて、**「この店で働けば、将来自分がやりたいことに近づける」**と思える場所を選ぶことが、修行期間を最大限に活かすための出発点です。
理想の店が具体的に決まっていない人は、まず色々な店に食べに行って、「こんな店を作りたい」と思える場所を探すところから始めてほしいと思います。
ポイント②:チェーン店・大手ホテルの修行は慎重に考える
「有名なチェーン店や大手ホテルで修行すれば間違いない」と思っている人もいるかもしれません。でも、私はこういった大きな組織での修行をあまりおすすめしません。
理由は2つあります。
ひとつ目は、「作ること」を学びにくいことです。
チェーン店では、料理の多くがセントラルキッチンで仕込まれた状態で届きます。現場でやることは、決められたオペレーションをこなすだけ。一から食材を仕込んで料理を作る経験が、圧倒的に少ない。
実はこれ、有名ホテルも同じです。
「ホテルで修行した」というと聞こえはいいですが、今の大手ホテルの多くもセントラルキッチン化が進んでいて、現場で一から作っているところは少ない。「有名ホテル出身」というブランドと、「料理を作れる技術」は、必ずしも一致しないのが現実です。
ふたつ目は、「作ること以外」も学べないことです。
個人店を経営するには、料理だけでなく、仕入れ・メニュー開発・集客・SNS・お客さんとの関係作りなど、さまざまなスキルが必要です。でもチェーン店やホテルでは、こういった仕事の多くは本部や専門のスタッフがやってくれる。現場の社員が関わる機会がほとんどありません。
大きな組織での経験が全く無駄とは言いません。ホスピタリティや衛生管理、接客の基礎など、学べることもあります。ただ、「独立するための修行」という目的には、個人店の方が圧倒的に向いていると思っています。
ポイント③:大きい店より小さい店を選ぶ
修行先の規模について迷う人も多いですが、私は小さな店での修行をおすすめします。
大きな店では、仕事が細かく分業されています。キッチンの中でも、仕込み担当・調理担当・盛り付け担当と分かれていることが多い。一人ひとりが担当する範囲が狭いぶん、全体を覚えるのに時間がかかります。
一方、小さな店では一人が担当する仕事の幅が広い。仕込みから調理、接客、仕入れ、閉店作業まで、少ない人数で全部回します。大変ではありますが、短期間で多くのことを経験できるという意味では、独立を目指す人には理想的な環境です。
「小さい店だと修行にならない」と思う人もいるかもしれませんが、むしろ逆です。小さい店ほど、将来自分が個人店を経営するときに必要なスキルが身につく環境が整っています。
ポイント④:人に恵まれるかどうか
修行先を選ぶとき、料理の内容や店の規模と同じくらい——いや、それ以上に大切なのが、**「人」**です。
同じ店でも、どの先輩や店長のもとで働くかによって、身につくものがまったく変わります。
私自身も、修行時代に店長によって良い時期と大変な時期がありました。気分屋だったり、教えることに消極的な人のもとでは、技術よりも「どう気分を読むか」に頭を使う時間の方が多かった。反対に、きちんと仕事を教えてくれる人のもとでは、同じ時間でも吸収できるものがまったく違いました。
残念ながら、働く前からその職場の人間関係を完全に把握するのは難しい。ただ、いくつか見極めるポイントはあります。
- 食べに行ったとき、スタッフ同士の雰囲気はどうか
- オーナーや店長が、お客さんやスタッフにどう接しているか
- 求人票だけでなく、実際に見学や話を聞く機会をもらえるか
入る前にできる範囲で確認して、「この人のもとで働きたい」と思える場所を選ぶことが、修行期間を充実したものにする大きな要素です。
まとめ:修行先選びのチェックリスト
修行先を選ぶときに確認してほしいポイントをまとめます。
- 自分がやりたい店のスタイルに近いか
- チェーン店・大手ホテルではなく、個人店か小規模な店か
- 大きすぎず、一人が担当する仕事の幅が広い規模か
- オーナーや先輩スタッフの人柄・雰囲気はどうか
- 料理を一から作る経験が積める環境か
完璧な修行先はなかなかありません。でも、この5つを意識して選ぶだけで、修行期間の中身が大きく変わります。
最後に
修行先選びに正解はありません。どこで働いても、学べることはあります。
ただ、「独立するための修行」という目的を常に忘れずに、日々の仕事に取り組んでほしいと思います。
雇われている間から経営者目線で仕事をすること。これは前回の記事でもお伝えしましたが、修行先の環境がそれをしやすいかどうかも、選択の大きな基準になります。
良い修行先を選ぶことは、遠回りに見えて、独立への一番の近道です。
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「小さな店の経営帳」では、個人飲食店オーナーのリアルな経営ノウハウを発信しています。税務、価格設定、仕入れ、集客——現場の実体験から、教科書には載っていない知恵をお届けします。
筆者プロフィール
ある地方都市で小さな個人飲食店を営む店主。開業から10年以上、家族経営のスタイルで営業を続けています。
派手さはなくても、小さな店が長く続くための実践的な経営の知恵を発信していきます。

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