これからお店を始めようとするとき、多くの人が最初にぶつかるのが「営業許可」と「食品衛生責任者」です。なんだか難しそう、役所の手続きって面倒くさそう……と身構えてしまう方も多いと思います。
でも、先に結論を言ってしまうと——営業許可も食品衛生責任者も、思っているほど難しくありません。地方で10年以上、家族で小さな飲食店をやってきた私自身、図面も自分で描いて、ちゃんと許可をもらえました。今回は、その実体験をまじえながら、「実際のところ、何をどうすればいいのか」を正直にお話しします。
※施設基準・手数料・講習会の費用などは、自治体や時期によって変わります。本記事の数字は一例なので、最終的には必ずお住まいの地域の保健所や食品衛生協会の公式情報で確認してください。

そもそも、飲食店を開くのに必要な2つ
飲食店を開くために最低限そろえないといけないのは、大きく分けてこの2つです。
- 飲食店営業許可……お店(施設)が、食品を扱う基準を満たしているか、保健所に確認してもらって出してもらう許可。
- 食品衛生責任者……お店に1人は必ず置かないといけない、衛生管理の担当者。資格を持った人が必要です。
順番としては、先に食品衛生責任者の資格を取っておき、そのうえで営業許可を申請するのがスムーズです。許可申請のときに、食品衛生責任者の資格が必要になるからです。まずは資格のほうから見ていきましょう。
食品衛生責任者は、1日でとれる(ハードルは低い)
「資格」と聞くと身構えてしまいますが、食品衛生責任者は1日の講習を受けるだけでとれます。試験に落ちる、というような難しいものではありません。正直に言って、ハードルはとても低いです。これから開業する人が、まず安心していいポイントだと思います。
- 受講時間……1日(合計6時間ほど)。食品衛生学・公衆衛生学・食品衛生法などを学びます。
- 費用……地域によりますが、おおむね1万〜1万2千円ほど(例:東京都12,000円、京都府一般11,000円)。
- 申込先……各都道府県の食品衛生協会へ。都市部は1〜2か月待ちのこともあるので、早めの申込みが安心です。
- 修了証……一度とれば有効期限なし。更新も不要です。
最近はeラーニング(オンライン受講)に対応している地域も増えてきました。24時間好きな時間に受けられるので、開業準備で忙しい人には便利です(費用は税込12,000円ほどが目安)。「会場まで行く時間がない」という方は、お住まいの地域がオンラインに対応しているか調べてみてください。
調理師・栄養士などは、講習が免除になる
ひとつ知っておくと得なのが、調理師・栄養士・製菓衛生師・医師・薬剤師などの資格を持っている人は、講習が免除されるということ。資格証明を出せば、講習を受けなくても食品衛生責任者になれます。
かく言う私も、調理師免許を持っていたので、この講習は受けずにすみました。……正直なところ、調理師免許が「資格」としてはっきり役に立った場面は、このときくらいかもしれません(笑)。料理は結局、現場で体で覚えるものですからね。それでも、開業のときに一手間減らせたのはありがたかったです。

営業許可は「保健所の事前相談」がすべて
ここが一番大事なところです。営業許可で失敗しないコツは、たったひとつ。工事を始める前に、保健所へ「事前相談」に行くこと。これに尽きます。
私のときは、自分で描いた図面を持って、保健所に相談に行きました。プロが描いたきれいな図面でなくても大丈夫です。「ここが厨房で、ここに手洗い場を置いて、客席はこのあたり」——それが伝わる図であれば、担当の方がちゃんと見てくれます。そこで「この配置なら大丈夫」「ここはこう直して」と教えてもらえるので、工事をやり直すような事態を防げるんです。
逆に、事前相談をせずに工事を進めてしまうと、いざ検査のときに「基準を満たしていません」と言われて、作り直し=余計な時間とお金がかかってしまいます。これが一番もったいない。だから、図面ができた段階で、まず保健所に足を運ぶことを強くおすすめします。
検査で見られるポイント(うちの場合)
施設検査では、いくつかの「施設基準」を満たしているかを見られます。地域や業態で細かい違いはありますが、よくチェックされるのはこのあたりです。
- 手洗い設備……どこに、どんな手洗い場があるか。
- 厨房と客席の区画……作業場とお客さんのスペースが、きちんと分けられているか。
- シンク……洗浄用のシンクが必要な数だけあるか。
- 床・壁・天井……掃除しやすく、清潔を保てる材質か。
- 扉・網戸……外から虫やほこりが入らない作りになっているか。
うちの検査のときに特に見られたのは、「手洗い場所がどこにあるか」でした。調理する人がすぐ手を洗える位置に、ちゃんと手洗い設備があるか——ここは衛生管理の基本なので、しっかり確認されます。図面の段階で位置を相談しておいたので、うちはここで引っかかることはありませんでした。
それと、シンク(洗い場)について、実体験からひとつ。営業許可の面では、シンクは「数」や「大きさ」が基準になっていて、業態によっては2槽必要と言われることもあります。ここは事前相談のときに、自分の店の図面で確認しておくと安心です。
ただ、許可の基準とは別に、もうひとつ声を大にして言いたいのが「シンクや作業台の高さ」です。これは検査で見られるわけではありませんが、自分の身長に合っていないと、本当に腰を痛めます。飲食店の仕事は、洗い物も仕込みも、来る日も来る日も立ちっぱなしです。少し低いだけでも、10年も続ければ体に効いてきます。基準を満たすことばかり考えて、つい後回しにしがちですが、毎日立つ場所こそ、自分の体に合わせて選んでほしい。これは、長く続けてきたからこそ言える本音です。
【要注意】手洗いの蛇口、「ひねるタイプ」はNGに
これから開業する人に、ぜひ知っておいてほしい変更点があります。厨房の手洗い場の蛇口が、「手でひねるタイプ」では基準を満たさなくなりました。
2021年(令和3年)6月の食品衛生法の基準改正で、手洗い専用の蛇口は「洗った手で、もう一度蛇口を触らずに止められる構造」が求められるようになりました。具体的には、こういうタイプです。
- センサー式(手をかざすと水が出る・止まる)
- 足踏みペダル式(足で操作する)
- 肘で押せるレバー式(手のひらや肘で操作できる長いレバー)
せっかく手を洗っても、最後にまた手でキュッと蛇口をひねったら、そこで手が汚れてしまう——その「洗ったあとの再汚染」を防ぐための基準です。おそらくコロナ禍での衛生意識の高まりも背景にあるのだと思います。
対象になるのは、厨房内の手洗い専用の蛇口です(トイレや、食器・食材を洗うシンクは対象外とされています)。なお、改正より前から営業している店は、次の更新までは猶予がある場合が多いです。ただ、この基準は自治体によって運用が違うこともあるので、新しく蛇口を選ぶときは、必ず事前相談のときに保健所へ確認してください。「あとで付け替え」になると、地味に出費がかさみますからね。
営業許可の流れと費用のめやす
あらためて、営業許可をとるまでの流れを整理しておきます。
- 保健所へ事前相談(図面を持って。工事の前に!)
- 営業許可を申請(必要書類を提出)
- 施設検査(保健所の人が実際にお店を見にくる)
- 許可証の交付(問題なければ。申請から2〜3週間ほど)
- 営業スタート
申請のときの主な必要書類は、営業許可申請書・施設の配置図(平面図)・食品衛生責任者の資格証明など。法人の場合は登記事項証明書、井戸水を使う場合は水質検査の成績書も必要です。
費用のめやすは、営業許可の申請手数料が16,000〜18,000円ほど(例:東京23区18,300円)。これも地域で差があります。許可には有効期限(5〜8年など)があり、期限が来たら更新が必要です。
ちなみに、2021年の法改正で「飲食店営業」と「喫茶店営業」の許可はひとつに統合されました。古い情報だと別々に書かれていることがありますが、今は一本化されています。あわせて、小規模なお店でも「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」が必要になりましたが、飲食店は簡略版でOK。難しく考えなくて大丈夫です。
まとめ:許可は「怖がらなくて大丈夫」
営業許可と食品衛生責任者、最初は身構えてしまうかもしれませんが、ふたを開けてみれば、そんなに難しいものではありません。大事なのは、この2つだけです。
- 食品衛生責任者は、早めに申し込んで1日の講習を受けるだけ(調理師などは免除)。
- 営業許可は、工事の前に必ず保健所へ事前相談。これでやり直しを防げる。
私自身、特別なことは何もしていません。自分で図面を描いて、保健所に相談に行って、教えてもらいながら進めただけです。役所の方も、頭ごなしに突き返すわけではなく、ちゃんと一緒に考えてくれます。怖がらず、まずは相談に行ってみる。それが、開業のいちばん確実な第一歩だと思います。
……と、えらそうに書きましたが、私も10年以上前に、右も左もわからないまま保健所の扉を叩いた一人です。これから開業するみなさんを、心から応援しています。
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筆者プロフィール
ある地方都市で小さな個人飲食店を営む店主。開業から10年以上、家族経営のスタイルで営業を続けています。このブログでは、教科書には載っていない現場のリアルを、飾らず正直に発信しています。→ 詳しいプロフィールと「書くときの約束」はこちら
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