原価率49%の店の中身、全部見せる|それでも10年潰れない理由

経営・お金

「飲食店の原価率は30%が目安」——開業の本にも、ネットの記事にも、だいたいそう書いてあります。その常識で見ると、うちの店は完全に失格です。原価率、49%。

でも、うちは10年続いています。今回は、この49%という数字の中身を、できる限り正直に見せようと思います。先に言っておくと、これは「原価率が高くてもいいんだ」という話ではありません。狙ってこうなったわけでもありません。気づいたらこうなっていて、それでも潰れなかった理由には、うちならではの事情がある——そういう話です。

閉店後のカウンターで仕入れ伝票の束と電卓の数字をじっと見つめる和食店の店主

ある時、お金がどんどん消えていることに気づいた

正直に打ち明けると、私は最初から原価率を管理していたわけではありません。きっかけは、数年前。月々の支払いをしていくと、手元のお金がどんどん消えていくことに気づいたんです。売上は大きく落ちていないのに、お金が残らない。おかしいな、と思って初めてちゃんと計算しました。

出てきた数字が、原価率49%でした。売上の半分が、材料代で出ていっていたんです。

計算といっても、難しいことはしていません。先月の仕入れの合計 ÷ 先月の売上。それだけです。

「経営の数字はちゃんと見ましょう」と偉そうに言えた立場ではありません。私はこれを、10年目までやりませんでした。でも、だからこそ、同じように「最近お金が残らないな」と感じている店主さんには、今夜、先月の伝票で一度やってみてほしいんです。感覚より、数字はずっと先に悪化しています。

そもそも「原価率30%」は、もう現実じゃない

原価率は「材料費÷売上」で出す数字です(計算はそれだけです)。長らく「30%が目安」と言われてきましたが、実はこれ、もう現実の数字ではありません。日本政策金融公庫の調査(2023年度)では、一般飲食店の売上原価率の実態は36.9%。食材の高騰で、平均そのものが上がっているんです。

業態によっても目安は大きく違います。一般に、カフェは25〜35%、居酒屋やラーメンは30〜35%、レストランは35〜40%、そして寿司や焼肉のような「素材が主役」の業態は40〜50%と言われます。うちの49%は、寿司・焼肉並みの水準ということになります。魚を扱う和食の店なので、もともと高くなりやすい業態ではあるのですが——それにしても高い。

仕入れは、10年で「倍」になった

なぜここまで上がったのか。答えはシンプルで、仕入れ値がこの10年でおよそ倍になったからです。

たとえばイカ。昔は「安くて使いやすい魚」の代表でした。それが不漁が続いて、今ではすっかり高級品です。同じ種類でも仕入れのたびに値段が変わるし、種類が違うだけで2〜3倍するのもザラ。イカだけじゃありません。魚も、野菜も、油も、調味料も。10年前の感覚のままの値付けでは、どうやっても計算が合わなくなりました。

うちの49%は「気前よく盛った結果」ではなくて、同じ料理を出し続けた結果、原価のほうが勝手に上がってきた数字なんです。おそらく、今この記事を読んでいる店主さんの多くが、同じ坂道の途中にいると思います。

それでも潰れない理由(うちの構造を全部見せる)

原価率49%は、普通なら店が傾く数字です。うちが続いていられるのは、腕がいいからではなくて、「構造」に助けられているからです。隠さず書きます。

① 家賃がほとんどかからない

一番大きいのはこれです。うちは縁があって、家賃がほとんどかからない形で店を構えることができました。飲食店の三大コストは「材料費(F)・人件費(L)・家賃(R)」。うちはRがほぼゼロだから、Fが49%でも全体としてギリギリ成立している——それが真実です。もし毎月10万、15万の家賃を払っていたら、この原価率では続いていなかったと思います。

② 人件費は家族経営

うちは家族でやっている店なので、外に払う人件費がほとんどありません。原価率(F)と人件費率(L)を足した「FL比率」は一般に55〜60%以内が目安と言われますが、うちはFが重いぶんをLの軽さで吸収している形です。

③ 広告費がゼロ

うちは有料の広告をやっていません(食べログの有料掲載もやめました)。それでもお客さんが来てくれるのは、料理と、常連さんの口コミのおかげです。つまり、よその店が広告に使うお金を、うちは材料に使っているとも言えます。京都に、原価率約50%で有名なステーキ丼の専門店があって、「うちの原価は広告宣伝費込み」という考え方を公言されています。あとから知ったのですが、うちがやってきたことも、結果的に同じ理屈だったのだと思います。

④ 捨てる分が少ない

同じ49%でも、「使い切っての49%」と「捨てながらの49%」はまったく違います。うちは小さい店で、仕込む量を体で覚えているので、廃棄はかなり少ないほうです。ロスの混ざっていない、濁りのない49%——だからこの数字でもなんとか立っていられるんだと思います。

……とはいえ。この構造があっても、「そのまま」では正直やばかったです。だからうちも、悩みに悩んで値上げに踏み切りました。そのときの話は、こちらに書いています。

👉 飲食店の値上げ、どう伝えるか

早朝の魚市場で値札を見ながら魚を選ぶ和食店の店主

誤解しないでほしいこと:真似はしないでください

ここまで読んで「原価率49%でもやれるんだ」と思った方がいたら、それは違います。うちは家賃と人件費が極端に軽いという、特殊な構造だから立っているだけです。家賃を払い、人を雇っている店が同じことをしたら、まず持ちません。

「原価率が高いのは仕入れの工夫が足りないだけだ」という指摘もあります。半分はその通りだと思います。うちも業者さんと付き合い、市場を見て、できる工夫はしてきた上での49%です。努力をやめた言い訳に「原価率が高くても大丈夫」を使ってはいけない——これは自分にも言い聞かせています。

それでも、この記事を書いたのは、「30%にできない自分の店はもうダメなんじゃないか」と思い詰めている店主さんに、伝えたいことがあったからです。

原価率は「単体で見る数字」じゃない

10年やってきて思うのは、原価率という数字は、単体では良いも悪いもないということです。家賃・人件費・広告費・そしてお客さんが戻ってきてくれる力。その全部との合算で、店は生きるか決まる。平均より高くても構造が支えていれば立つし、平均より低くても家賃が重ければ倒れます。

だから、もしあなたの店の原価率が「常識」より高くても、その数字だけで自分の店を責めないでほしい。見るべきは、率ではなく、月末に残るお金と、お客さんがまた来てくれるかどうか。うちはそれだけを見て、なんとか10年立ってきました。

……と、えらそうに書きましたが、「お金が消えていく」ことに数字で気づくのが遅れた張本人が私です。同じ坂道にいる誰かの、何かの足しになれば嬉しいです。

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筆者プロフィール

ある地方都市で小さな個人飲食店を営む店主。開業から10年以上、家族経営のスタイルで営業を続けています。このブログでは、教科書には載っていない現場のリアルを、飾らず正直に発信しています。→ 詳しいプロフィールと「書くときの約束」はこちら

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