小規模企業共済、私は入っていない|10年店主が「お金の自由」を選んだ理由

経営・お金

個人で店をやっている人間には、退職金がありません。厚生年金もありません。60歳になっても65歳になっても、あるのは国民年金と、自分で貯めたものだけ。「老後どうするの?」は、個人事業主全員に突きつけられている宿題だと思います。

その答えとして、税理士さんの記事でもFPさんの記事でも、まず勧められるのが「小規模企業共済」です。個人事業主の退職金制度で、節税にもなる。たしかに良い制度だと思います。でも、正直に言います。10年店をやってきて、私はこの共済に入っていません。今回は、その理由を包み隠さず書きます。

※制度の数字は中小機構(公式)を確認して書いていますが、2026年7月時点のものです。加入を検討する際は必ず公式サイトや専門家で最新情報を確認してください。また、これは「私の店の場合はこう考えた」という話で、共済を否定するものではありません。

夜の閉店後、カウンターに通帳と電卓を広げて老後の備えを考える小さな飲食店の店主

小規模企業共済とは(ざっくり)

小規模企業共済は、国の機関(中小機構)が運営する、個人事業主や小さな会社の経営者のための退職金制度です。毎月の掛金は1,000円〜70,000円(500円刻みで自由に設定・変更可)。そして最大の特徴が、掛金の全額が所得控除になること。つまり、老後のお金を積み立てながら、その分いまの税金が安くなる、という仕組みです。

先に、良いところを正直に言います

入っていない私が言うのも変ですが、制度そのものはよくできています。フェアに、良い点を先に並べます。

  • 掛金が全額所得控除。所得が多い年ほど節税効果が大きい。
  • 受け取るときも優遇がある。一括で受け取れば「退職所得」扱いになり、税金の計算がかなり有利。
  • 掛金の範囲内でお金を借りられる貸付制度がある(いざという時の備えにもなる)。
  • 廃業したときは手厚い。店をたたむ場合に受け取る共済金は、元本割れしにくい設計になっている。

だから、「共済はやめとけ」と言うつもりはまったくありません。向いている人には、とても強い制度です。それでも私が入らなかったのは、次の理由からです。

それでも、私が入っていない理由

理由1:お金が「動かせなくなる」から

一番の理由はこれです。共済の掛金は、一度入れたら簡単には戻せません。途中でやめる「任意解約」の場合、加入20年(240ヶ月)未満だと受け取れる額が掛金の合計を下回ります。つまり元本割れ。12ヶ月未満なら掛け捨てです(※廃業する場合の共済金は別で、こちらは手厚い扱いです)。

「苦しくなったら掛金を月1,000円に減額すればいい」という声もあります。ただ、減額した分にはその後利息がつかず、置かれたままになりますし、増減額のしかたによっては20年を超えていても元本割れが起きることがあります。身動きの取りにくさそのものは、減額しても変わらないんです。

「20年続ければいいだけでしょ」と思うかもしれません。でも、小さな飲食店を10年やってきた実感で言うと——20年間、何も起きない保証なんてどこにもないんです。コロナのような時代の激変。冷蔵庫や空調の突然の故障。仕入れの高騰。そのたびに店を守ってくれたのは、いつでも動かせる手元のお金でした。小さな店にとって、手元資金の自由は命綱です。

理由2:「節税」というより「税金の先送り」だから

掛金は全額控除で、いまの税金は確かに安くなります。ただし、受け取るときには課税されます。一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得。優遇はあるものの、「税金がゼロになる」わけではなくて、正確には「いまの税金を、将来に送っている」仕組みなんです。

しかも、これは廃業などで「共済金」として受け取る場合の話。途中でやめる任意解約だと、65歳未満は「一時所得」という扱いになり、税の優遇はさらに薄くなります(2026年7月時点・中小機構の資料より)。

受け取り方によって税額が変わるので、出口では「退職金としてどう受け取るのが得か」を考える必要があります。私はここが、正直ややこしいと感じました。何十年も先の出口のことを考え続けるより、いま自由に動かせるお金を選びたい——それが自分の性格と、うちの店の体質に合っていました。

理由3:私の判断軸は、いつも同じだから

このブログを読んでくださっている方は気づいているかもしれません。私は決済端末を選ぶときも、営業電話を断るときも、ずっと同じ物差しで決めてきました。「毎月の固定費と、お金の拘束を増やさない」。月額固定費のある決済サービスを見送ったのも、これでした。共済に入らなかったのも、根っこは同じです。うちのような小さな店は、身軽さがいちばんの武器だからです。

じゃあ老後は何もしていないのかというと、そうではありません。私は出し入れが自由なNISAを選びました。ここでは中身の解説はしません(投資の話はこのブログのテーマではないので)。ただ、「共済に入らない=何も備えない」ではない、ということだけお伝えしておきます。

昼下がりの店で通帳を手に、ほっとひと息つく飲食店の店主

共済が向いている人・向いていない人

私なりの、正直な線引きです。

向いている人:

  • 利益が安定して出ていて、掛金を「無くても困らないお金」で払える人
  • 廃業か引退まで続ける前提で、退職金としてきっちり受け取る計画が立つ人
  • 所得が多く、控除の節税効果が大きい人

慎重に考えたほうがいい人:

  • 売上の波が大きく、手元資金に余裕がない人(うちはここでした)
  • 20年続けるかどうか、まだ見えていない人
  • 「節税になるから」という理由だけで勧められるままに入ろうとしている人

まとめ:正解は、店の数だけある

小規模企業共済は、良い制度です。でも「全員が入るべき」ものではないと、私は思っています。節税の大きさと、お金の自由。どちらが自分の店の命綱かは、店によって違うからです。私は自由を選びました。あなたの店には、あなたの答えがあっていい。

ひとつだけ確かなのは、掛金をいくらにすれば得かは、その年の所得と税金の話と切り離せないということ。もし迷っているなら、勧誘とは関係のない立場の税理士に「うちの場合はどうか」を聞くのが、一番の近道だと思います。

「これ経費になる?」の判断に迷ったら、税理士に任せるのが一番確実で気がラクです。費用のリアルはこちらにまとめています。

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……と、えらそうに書きましたが、老後のことは私も答え探しの途中です。10年後に「やっぱり共済に入っておけばよかった」と書き直している可能性も、正直ゼロではありません(笑)。そのときは、それも正直に書きます。

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筆者プロフィール

ある地方都市で小さな個人飲食店を営む店主。開業から10年以上、家族経営のスタイルで営業を続けています。このブログでは、教科書には載っていない現場のリアルを、飾らず正直に発信しています。→ 詳しいプロフィールと「書くときの約束」はこちら

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